産経新聞平成18年1月25日掲載 え〜美タミン NO.63
「僕の脳裏を染めた赤」
いけばな作家、中川幸夫を知ったのは、テレビの美術番組。九百本のカーネーションを自作ガラス器に閉じ込め、真っ赤な花液が下部から流れ出している『花坊主』(一九七三年)という写真作品を見たのが最初。「えっ、これがいけばな?」と思ったけど、次第にその赤が脳裏を染め、体全体に垂れ出し、最後は部屋全体が真っ赤な海と化した。「なんじゃこりゃぁー!」《BGM「太陽にほえろ」スローバージョン》。
というわけで、香川県の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館の『花人 中川幸夫の写真・ガラス・書-いのちのかたち』へGO!《BGM「太陽にほえろ」のテーマ》。丸亀駅から、美術館を探す。「たしか駅前にあるはずだが・・・あっ、あった!」《BGM「太陽にほえろ」追跡バージョン》。
階段を駆け降り、改札を出て信号を渡り、猪熊作品が目印の美術館へ到着。中川幸夫(一九一八年生まれ)は、この丸亀市出身。その独創的ないけばなは、写真で表現することにより新たな芸術性が生まれ、いけばなファンのみならず、美術ファンの心をも掴んでいる。
では、さっそく拝見!
「うわぁー、なんて鮮やかな赤なんやろう」。そう思い立ち止まったのは、『叫ぶ花』(一九八二年)の前。「サラ・ブライトマンの♪タイム・トゥ・セイ・グッドバイ♪が聞こえてきそうや」
続いては、竹の皮がマントのようになびいている『奇襲』(一九八二年)。「ワーグナーの♪ワルキューレの騎行♪が頭で鳴ってる」。そして、白菜を少しだけ斜めに立てた『ブルース』(一九九三年)。「白菜の線が道に見えて、ロバート・ジョンソンの♪クロスロード・ブルース♪がミシシッピーに連れてってくれる」
会場の中央には、ガラス作品が展示してある。上にヌヌゥーと延びた線が印象的な『乾いたのど』。書は、太字に墨が滴り落ちている『雨』。どの作品もT生Uに溢れ、命の証しが存在していた。
「花のように燃え咲く人でありたい」。そうつぶやく私の中では、二十世紀バレエ団の♪ボレロ♪(ラヴェル)が、壮麗に舞い踊っていた。