産経新聞平成17年10月12日掲載 え〜美タミン NO.49

「介護をアートする」

ギャラリーの空気感って大事なんですよ。犬みたいにグルッと回って「あぁ」って感じでつかめる場合と、猫みたいに姿勢を低くして「んっ?」って感じで見入ってしまう場合があるんです。京都のアートスペース虹で開催された『折元立身のオブジェ』は、ニャン子パターン。入ると正面下に、おばあちゃんの写真がベタベタ張ってあるヨレヨレの段ボールが置いてあり、そこから何やら話し声が・・・!?

子「おふくろ、作品売れないね」
母「売れなくて困りますね・・・(バナナボートの替え歌)
♪今月足りない 借りねばならぬ デオ イデデェーヨ」

実はこれ、折元立身さん(一九四六年生)の『アートママ 母の声の箱』(一九九九年)という作品。

「段ボールが雨ざらしでつぶれてて『おふくろみたいだ』と思って持って帰り、写真を貼ったそうですよ」と話してくれたのは、オーナーの熊谷さん。そう聞いて作品と向き合うと、母への恩愛がヒシヒシと伝わってくる。

折元さんは、母・男代さんの介護をアート化する『アート・ママ』プロジェクトを、九六年から始めている。ギャラリーの奥に展示してある『アート・ママ ポストボックス』(二〇〇〇年)。これは、ドイツで拾ってきた団地の郵便箱に、ママの入れ歯・写真・薬・診察券・折り紙・タイガーバームなどが置かれ、受け口からは日常のママのビデオを覗き見ることができる。

何か、郵便箱そのものがママのような気がしてきた。あっ、タイガーバームの匂いとママがダブってきた!と、そのままの空気感でさらに奥へ進むと、段ボールでできた緑色の大きな靴を履いたママの写真『SMALL MAMA + BIG SHOES 1997』が靴と共に展示してあった。「お母さん、背が低いんで学校で一番前に並ばされてて、穴の開いた靴が目立ちイヤだったみたいです」。背が高くなり、誇らしげなママの姿。そうか、これが介護アートか!

気が付けば、録音テープのママの寝息がギャラリーを包み込んでいた。"アートママ"、今夜もいい夢みて下さいね。