産経新聞平成17年8月3日掲載 え〜美タミン NO.40

「「売れる」というより「熟れる」」

赤は『売約済み』、青は『思案中』。
これって何だかわかります?

実はこれ、画廊のプライスシートに貼ってあるシールの色。
けど最近、シールだらけの展覧会ってないなぁ・・・。
いや、それがあったんです!
大阪の児玉画廊で開催されていた『伊藤存展』。

私が行ったのは三日目。
この時点で一部屋の十三点中の十点が赤、三点が青という凄い売れ行き!!
この人気の秘密、気になります?
実は存君、『描く』のではなく『縫う』んです。
そのかすれた感じの糸のラインからは、男の子の遊び心と
緻密に計算された"動き"が伝わってくるんです。
存君の作品の楽しみ方っていろいろあって、たとえば『タイガーコネクション』。
タイトルにタイガーと書かれている以上、どこかにトラが描かれている筈。
けどそれを探すのが一苦労。糸林の中から「あっ、いた!」なんて見付けても、
「実はもう一匹いるんですよ」なんて言われたら、思わず「ガァォー」と吠えたくなる。

そう言えば、二〇〇三年ワタリウム美術館(東京)での『きんじょのはて』展の時、
展示作品や会場の片隅などに生息する!?小さな作品を見付けて楽しむ、存君ナビの
『ウラ展覧会ツアー』というのがあった。
今から考えると、館全体を作品にしてたんやなぁ・・・。

そんなことを思いながら、次の部屋へ移動。
すると、床に紙を使った作品が展示してある!?
よく見ると、薄茶色の紙を手でちぎって枯れた沼地を表現し、
大蛇が雌鹿を飲み込んだ姿を白い紙で化石にしている。
あっ、思い出した。以前に「僕、あばらとかの骨の感じが好きなんですよ」って言ってたわ!
また、シーラカンスまで完璧で、芸が細かい。
さらに奥の部屋に行ってみると、習作ドローイングを何と初公開!
『描く』から『縫う』。
そのスリリングな関係は、まるで数奇な運命の糸に操られているかのよう。

・・・凄い!

『売れる』というより『熟れる』。そのことを強く感じた今回の展覧会。
存君は、これからも私の中でずっと"在り"続けることでしょう。