産経新聞平成17年7月27日掲載 え〜美タミン NO.39
「実験室で生まれた神話」
フランス象徴主義の先駆者ギュスターヴ・モロー(一八二六−九八)。
マティス・ルオーの師であり、代表作に『一角獣』『出現』などがある。
って堅苦しい説明は抜きにして、今、展覧会が開催中(三一日まで)の兵庫県立美術館へGO!
入り口付近、いきなりバーンと目に飛込んできたのは、
モロー美術館内の"螺旋階段がある三階のアトリエ空間"を写した大きな写真パネル。
・・・んっ!?まだ作品を観ていないのに、すでに動けない・・・。
何か凄くて濃い〜予感がする。
聞くところによると、四時間以上も滞在した方もいるらしい。
展示は、八つのゾーンに分かれている。
私の興味をひいたのは、ギリシャ神話を題材にした五枚の『ユピテルとセメレ』。
人物をはっきりとした線で書いた鉛筆の習作二枚、全体がかなりぼや〜っとした油彩・厚紙の構想画、
署名と年記が記され二人がある程度わかる油彩・キャンバス、
二人がアップではっきりと描かれた油彩・キャンバス。
何故こんなに多数あるかというと、自宅・アトリエを美術館にしたので、
作品がそれだけ残されているのである。
でもこの五枚の描き方、何かに似ている・・・。
あっわかった!映画や舞台の絵コンテや。
モローは、神話の世界を映像で最大限にイマジネーションし、それを絵にしていった。
そう考えていくと、想像上の動物を描いた『一角獣』や、
空中に出現したヨハネの輝く首をサロメが指している『出現』も、
かなりドラマティックで映画や舞台のワンシーンのよう。
モローはアトリエのことを"実験室"と呼んでいた。
そう、実験なんです。
自分の頭の中にある想像を絶するドラマを、いかに一枚の絵に表現するか!
未完成が多いのは、泉のごとく湧き出るイマジネーションのスピードと
絵筆のスピードが反比例していたのではないでしょうか。
もしモローがこの二十一世紀に実在していたら、最高の舞台や映像作品が観られたに違いない。
"十九世紀のマシュー・バーニー"、そう呼ばせてもらいます。
モロー様、あなたこそ神話です。