産経新聞平成17年7月20日掲載 え〜美タミン NO.38

「「なる」という気分」
アートに対する関わり方には、『見る』『知る』『買う』と三つがあるが、
作品に『なる』という関わり方をしている作家が大阪にいる。
森村泰昌さん(一九五一年-)だ。

森村さんは、モナリザなどの絵画になりきって撮影をし、作品を制作している。
森村さんとの出会いは、JR環状線高架下にあるアトリエ。
そこには、初期の作品や撮影に使われた小道具などが置いてあり、
愛好家の私にとってはヨダレもの。
そして購入したゴッホのひまわりになりきった作品などを受け取り、
その日は一緒に天ぷらを食べに行き、ルンルン気分で帰宅。
「あぁ、楽しかった。けど、『なる』ってどんな気分なんやろ?」。
そんな疑問を解決する、ある企画が持ち上がった。
なんと私がアンディ・ウォーホルになり、森村スタッフで撮影をするという企画!
メイク・衣装に二時間。メイプル・ソープが撮影したウォーホルに、
限りなく近付けようとスタッフも必死。そして本番。
一時間後、森村さんもスタッフもスタジオにいる全員が「この瞬間しかない!」
と感じてシャッターを切った瞬間、私はハッとした。
これは実際にウォーホルが撮影されてた時の空気感と同じだ。

今、時空を越えて、その時の撮影現場にタイムスリップしている。
そうか、これが『なる』か!

その後個展でご一緒させていただいたり、
大阪成蹊大学・芸術学部の生徒の作品について二人でトークしたりして、
私は益々森村ワールドにハマっていった。
そして今、北浜にある「MEM gallery」で、森村泰昌展『フェルメールの部屋』が開催されている。
初日のフェルメールのレクチャー後、画廊に足を運んでみてビックリ!
なんと画廊の床を張替え『画家のアトリエ(絵画芸術)』風の部屋に改装しているではないか!
そしてそこには、森村さんの描画道具などが置かれており、
そのしつらいはまさに、森村版フェルメールの部屋。
皆さんもこの部屋に入ってみませんか?
そしたら気付く筈です。
作品の中に自分がいて、フェルメールになれたことを・・・。