産経新聞平成17年6月1日掲載 え〜美タミン NO.31

「聖母の姿に時間を忘れ」
東京の国立西洋美術館で開催されていた『ジョルジュ・ド・ラ・トゥール』展に行ってきた。ラ・トゥール(1593年生まれ)の現存する真作は僅か40点あまりで、今回はその内の18点を展示。入り口には、この美術館所蔵の『聖トマス』を含む『キリストと十二使途』12枚(真作4、コピー8)があり、見ていると8枚の紛失が悔やまれる。そんな事情もあって、模写作品が多い。けど、そのほとんどが美術館所蔵というから、驚き

私は「真作は、ひょっとしてこんな感じ!?」というイマジネーションをかき立てられ、倍楽しめた。ゆえに、真作が以下に貴重であるかということがわかる。そんな中、忘れられない作品がこれ!『聖ヨセフの夢』。椅子でうたた寝をするヨセフに、天使がお告げをしようとしている作品。その天使の姿は、蝋燭の光に照らされ、神秘的でもあり、また現実的でもある。

何故現実的かというと、天使なのに翼が付いていないんです。それだけ聖なるモノに対する距離感が、個人レベルに移行していった時代なのかなぁ〜?それにしても蝋燭の灯りに魅せられ、実に癒し系な展覧会だった。

そんな思いを胸に、常設展へ移動。閉館時間も迫っていたので、駆け足で作品を見て回った。すると、17世紀以前のイタリア絵画の展示室で私はハッとし、足を止めた。聖母が濃いブルーのベールを被り、神々しい光を発している姿を描いた、カルロ・ドルチの『悲しみの聖母(聖母として描かれた画家の妻テレーザ・ブレケッリ)(1650年代作)だ。美しい・・・。この絵から離れたくない・・・。

しかしもう閉館の時間。また駆け足で観て回るが、聖母が頭から離れない。あ〜、もう一度観たい!気が付けば私は、人の流れを逆行していた。たどり着いたのは、客のいない展示室。私は聖なるモノに包まれ、うたた寝しそうになった。そう、ヨセフのように・・・。国立西洋美術館様、本当に素晴らしい作品をお持ちですね。私は日本人として誇りに思いますよ。礼!