産経新聞平成17年5月11日掲載 え〜美タミン NO.28

「忘れられないメッセージ」
先日、岡本太郎記念館館長・岡本敏子さんが、心不全でこの世を去った。いつも芸術について語られる姿は、神々しく、それでいて気さくな方でした。私が敏子さんに会いたいと思ったのは、2002年3月に永井画廊で行われた「岡本太郎・書展」。

展示されていた『競』『遊』『喜』『楽』などの書からは、境界線のない自由なフォルムが表現され、注目作『爆発』は、弾ける墨から底知れぬパワーが発せられ、お馴染の「芸術は爆発だ!」と言う声が聞こえてきそうな位のド迫力。あぁ、岡本敏子さんにお会いして、いろいろお聞きしたい!そう思ったが、後ろ髪引かれる思いで帰阪した。

それから二年後、敏子さんに会えるチャンスが訪れた。アート遊での「岡本太郎版画展」の初日、岡本敏子著本・出版記念サイン会が開催され、私も足を運んだ。そこで、あの書についてお聞きしてみると、「あらっ、書展行って下さったの?嬉しいわぁ。まだまだいいのがいっぱいあるのよ。岡本太郎にとって、絵も書も表現は一緒なの」。素晴らしい!そう私が感動に浸っていると、画廊の澤井さんが「よかったらご一緒にお食事しませんか?」とのお誘い。
私はナビを引き受け、行き着けの店へと案内した。「この店、コースとかじゃなく気軽にお食事できるところがいいわぁ。食も芸術も気取らないのがいいのよ。ありがとう」と言い、私の頬を両手で何度もスリスリしてくれた。

それから数ヵ月後、東京へ行く機会があり、記念館へ敏子さんを訪ねてみた。突然の訪問にも関わらず、「わぁ〜、来て下さったの。嬉しいわぁ〜」と温かく迎えてくれて、私にも熱心に耳を傾けてくれた。「貴方、本当に美術がお好きなのね。評論家みたいに芸術を難しくしちゃ駄目よ。今の貴方の目線で、これからも皆さんを楽しませて上げてね」。私はこの時、頭で考えて伝えるのではなく、直感や流れで伝えてゆくことを学んだ。敏子さん、ありがとう。心よりご冥福をお祈り致します。