産経新聞平成16年10月20日掲載 え〜美タミン NO.3

「すごい師にめぐり会えた」

初めての版画購入から約一ヶ月ー。人間、夢中にさせてくれるものに出合うと、時を忘れてしまうもの。
百貨店の画廊から町のギャラリーまで、感性の赴くまま必死で足を運んだため、ついに私は足に痛みが出てきて、
近所の接骨院に行くことに。そこで、治療してもらいながらの話題はもちろんアート。
とその時、先生が「五十代の患者さんで橋口さんっていう方が画商されてるみたいですよ。紹介しましょか?」
「えーっ!?はっ、はい!」さっそく連絡をとってもらい、大阪市内にある橋口さんのお宅におじゃま虫〜。
壁には数点の絵が掛けてあり、とても上品な部屋造り。「どうぞお座りください」と言い残し、
橋口さんは奥の部屋へ行き、何点かの作品を持ってきました。

「まずこれは、須田剋太の仁王様を描いたガッシュ(不透明水彩)作品です」「・・・?」
私はその剛毅な姿から、作家の今まで歩んできた苦悩や葛藤が伝わってきて、言葉が出ませんでした。
「剋太は、はり絵作品もあり、おもしろいですよ」。はり絵!?
多才だ!そう私が感心していると、今度はモノトーンの数点の版画を取り出し、
「私が若い頃、熊本のアトリエまで行って分けて頂いた、一九五○年代後半から六○年代にかけての浜田知明のエッチングです」。
えっ!?アトリエまで押し掛けた?何という情熱!
何十年も経過しているのに保存状態がよく、戦争時代の緊張感がひしひしと伝わってくる!
う〜ん。

そして最後に見せていただいたのは、お地蔵さんの日本画が多数掲載してある図録。「ほら、このお地蔵さん笑ってるでしょ?」。
あっ、この作家、画廊で見たことあるなぁ〜。
「これは穐月明の作品です。ご存知でしたか?」
私は、その包まれるような微笑みに魅了され、購入を決意。
その日以来、橋口さんと一緒に展覧会に足を運び、いろいろ教わっています。そんな、師である橋口さんから電話が!?
「ロシア語覚えたんで今度一緒にロシアの美術館に行きませんか?」。
師、あなたは凄すぎる。こうして私は、よりアートの深海へと誘われていくのです。