産経新聞平成16年10月13日掲載 え〜美タミン NO.2

「絵みたいな写真、えっ油絵?」

見たい、その人間の本能に目覚めた私は、版画を購入した次の日から百貨店の画廊周りの旅が始まりました。
その当時は大阪市内にデパートが八ヶ所あり、一日ですべて回ればご利益モノ。
ご褒美として深い眠りが約束されます。もちろん仕事で遠方に行ったときも、デパートの画廊めぐりは必須です。
そして、帰阪時の終着駅型デパートへのお参りも欠かせません。

その日は上本町近鉄に寄り、思い切って質問してみました。
「あの〜、下の16/80って何ですか?」そしたら店員さんが
「これは版画のエディションといって、八十枚刷った内の十六枚目ということです」。

へぇ〜そうやったんかぁ〜、と思った同時に急に腹が減ったので、晩飯をこの辺で済ませることに。
「あっ、近くにギャラリーレストランがあったなぁ〜」と私は「キャリヨン」というレストランに向かいました。
店内には何点かの作品が飾られてあり、「絵みたいな写真ですねぇ〜」といったら店のお母さんが
「何言ってるんですか、けんたさん、これは小澤一正先生の油絵ですよ」えっ!?これが油絵?めっちゃリアル!
月明かりに照らされたシャクヤクの花が、全てのモノを静寂の世界へと誘ってしまう程の美しさ。
これぞ写実・スーパーリアリズム!と私が感心していると、今度はその店の娘さんが
「小澤先生、奥に来てはるよ。紹介しましょか?」。

なな、なんと、奥にはベレー帽を被った小澤先生がいらっしゃるではないか!!
「どうします?」と娘さん。「えっ、え〜っと、とりあえずハヤシライス」。
実に大阪人らしい返しだと、自分を褒めてあげたい気分でした。
そして私は、ご一緒させていただき、なぜ絵のモチーフを浮遊させているんですか?
とお聞きしたら、世の中の不安定さを表現しているとのこと。
うん、端々に緊張感が溢れ、いつのまにかその世界観に吸い込まれてゆく。
写実画に今をみたり!けど、何よりも一番浮遊していたのは私自身だったかも・・・。
あー、どんどんハマっていく、アートの世界に・・・。